2024年4月20日に開かれた「周恩来の生誕126周年と平和共存五原則の発表70周年の記念」の報告

「大同」の精神を受け継ぎ、平和を実践する

周恩来の生誕126周年と平和共存五原則の発表70周年を記念するイベントが、周恩来平和研究所の主催で、2024年4月20日に京都の嵐山で開催された。イベントは午前と午後の2部構成で、午前中は主に亀山公園にある周恩来詩作「雨中嵐山」記念詩碑を見学した。午後は、この詩碑の対岸にある嵐山大悲閣千光寺で記念式典が行われた。日中の50人が参加した。

記念式典では、周恩来平和研究所の所長であり、桜美林大学の特任教授の王敏氏が開催の趣旨を説明・主催した。留学生だった周恩来が帰国前に詩作した2つの詩「雨中の嵐山」と「雨後の嵐山」を朗読し、献歌した。これらの詩には、華人音楽家の張文乃氏が作曲したメロディーが付けられ、NPO法人国際音楽協会が伴奏した。

このイベントの最大のハイライトは、ゲストのスピーチの内容だった。それぞれのスピーチには、真摯な感情を表現し、貴重な知恵を輝かせていた。一部の抜粋をここに記させる。

周恩来の親族である周秉德氏のビデオスピーチ

「1919年4月、21歳の周恩来は雨の中で京都の風景地、嵐山を訪れ、「雨中嵐山」、「雨後嵐山」という名詩を作り上げ、中国の振興という偉大な志を表現した。」

「新中国が成立した後、周恩来は首相として、多忙の中でも文化財保護に心血を注ぎ、多くの重要な指示をした。よって、動乱の時代において、多くの貴重な文化財が今日まで保存されることを可能にした。彼が違法な破壊行為を即時に阻止したため、孔廟、孔府、孔林は被害を免れたのだ。これらの文化遺産は孔子の思想と儒教文化の精髓を伝え、中華文明の重要な一部を形成している。」

「周恩来が新中国の首相を務めた26年間で、中日の正常な国交を実現するために多大な努力を尽くした。中国の指導者として、彼が友好的に交流した国々の中で、日本の各界の人々との会見が最も多かったのだ。」

孔子の79代目直系の嫡長孫・至聖孔子基金会の会長である孔垂長氏のスピーチ

「率直に言って、以前は周恩来氏についてあまり知らなかった。しかし今、私は理解していた。若き日の周氏はすでに大同の理想を抱き、"中華の興隆のために学ぶ"という壮大な志を抱いて日本に留学した。大同社会は、先祖である孔子が創設した儒教文化の理想的な社会目標であり、多くの儒学者が人生の目標として人生をかけていた。」

「周恩来氏は生活の中で質素で自律、自己修養を重んじ、人々に対して温文儒雅であり、多くの日本の友人からも認められていた。これは、儒学文化が個人の修養に対する理論が、政治を超越し、国境を越え、普遍的な価値を持っていることを示していると思える。」

「最も感動的だったのは、周恩来氏が20世紀に中華伝統文化の貴重な遺産の保護に巨大な貢献をしたこと。特に、あの特別な歴史的時期に、彼は自身の影響力を用いて、孔府、孔廟、孔林の破壊を阻止し、可能な限り貴重な儒学文化遺産を保護した。また、馬一浮氏や梁漱溟氏のような儒学の大師を最大限に保護し、儒学の伝統を継承するための貴重な種子を保持した。

ここで、私は海内外の300万以上の孔氏の宗族、そして孔子の思想を認めるすべての儒学の同士を代表して、このことに対して心からの感謝を表す。」

日本外務省アジア大洋州局中国/モンゴル第二課課長の石飛節氏のスピーチ

「日中両国は移動できない隣国であるため、摩擦や矛盾、意見の相違、時には利益の衝突が避けられない。しかし、田中角栄首相と周恩来総理という我々の偉大な先人たちは、両国の政治体制の違いがある中で、共に両国の国交正常化を推進し、日中関係の新たな歴史の章を開いた。我々はよく日中関係が冷え込む原因を時代や相手方に求めがちだが、私はその態度は間違っていると思う。歴史的背景は異なるが、先人たちが成し遂げたことは、我々この世代も成し遂げるべきだ。では、我々が欠けているのは何か?それはおそらく、政治的リスクを負う、相手の立場を考慮し、互いに一歩譲る勇気と決意だろう。」

「2007年末、私はまだ中国課の課長補佐だったが、福田首相の訪中の準備に参加した。日中文化の共通源を確認するために、日本の首相が曲阜を訪問することは非常に意義深いことだった。日本では、『論語』の教えがすでに深く人々の心に浸透している。私は「己所不欲、勿施于人」という名句が好きだ。」 「私は、現在日中両国が必要としているのは、このように相手の立場を考慮し、互いに一歩譲る"己所不欲、勿施于人"の精神だと思う。もちろん、言うは易く行うは難し、日中両国が政治的に互いに譲歩することは難しい。しかし、だからこそ、我々は政治的な勇気と決意を持つことが必要だ。」

周恩来親族・大鸞翔宇慈善基金会理事長沈清氏のスピーチ 

「本日は特に、孔子の第79代嫡長孫である孔垂長様のご出席は嬉しい限りだ。

 去年2023年の清明節には、伯父の周秉和とともに、ここに行われた周恩来生誕125周年と『雨後嵐山』記念詩碑建立1周年の記念式に参加した。訪日の折に、私は各界の方々から中日両国友好に対する熱心、また両国の民間交流の必要性を実感した。国は近く、思いは通じ、両国国民の相互理解と認識の深化によって、両国関係の良性発展を促進することができると信じる。

 今年は、周恩来が「和平共存五原則」を提唱してから70周年を迎えている。この間、国際社会の趨勢は揺れ動いているが、わが北京・大鸞翔宇慈善基金会は、慈善活動を通じて、人類運命共同体の構築をサポートしている。

 私たちはさまざまな挑戦や衝突に直面している。その度に周恩来の平和理念から貴重な啓示を汲み取ることができた。今後とも平和発展を積極的に推進し、皆様と共に励む所存である。」

温故知新会・神戸孫中山記念館理事の片山啓氏のスピーチ

「日本の戦国時代から伝えられてきた話の中に、毛利元就(Mori motonari)に関連する〈三矢の教え〉という話がある。これは彼が三人の息子に戦国時代での生存の知恵を伝える話なのだ。

私がこの話を現代に解釈すると、現在、福田康夫元首相を代表とする組織の下で、(1)周恩来平和研究所が2023年の【周恩来祭】を主催し、福田赳夫氏が深く敬意を表した周恩来総理の平和思想を継承している。法政大学名誉教授の王敏氏がその研究所の所長を務めている。(2)日本アジア共同体文化協力機構(JACCCO)は、日中交流を核とし、日本およびアジア地域で広範囲にわたり積極的に文化交流を行い、特に若者間の交流を推進し、相互信頼、相互尊重、教育活動を開発・促進している。その機構の代表理事は、元日本駐中国大使の宮本雄二氏が務めている。(3)五百旗頭真氏を委員長とする「温故知新の会」は、日中関係の改善と促進のために、歴史的に意義のある活動を積極的に展開している。

これら三つの組織は、「三矢の教え」の現代の実践者とも言えよう。近年、一連の努力と試みを通じて、各自の目標を達成するために、前進し続けている。」

中国科学技術資料出入国有限責任公司副総経理の李燕氏のスピーチ

「周恩来は中国人民の心の中では良き総理であり、世界人民にとって良き友である。 今日、私たちは偉人がかつて立ち止まった嵐山に上がり、偉人が残した足跡を辿ることを通して、中日両国人民の世代友好には、新たな一章を刻まなければならないと自覚している。
 当社は、良き図書の輸入輸出のビジネスをしているが、これからも出版物を介して、中国と日本の文化交流を促進する上で積極的な役割を果たすことを心決めている。」

 こう語った李燕氏は、新刊『周恩来の日本留学生活』(王敏著、中央編訳出版社)を周恩来の雨後嵐山記念詩碑に供えた。

主催者代表である周恩来平和研究所所長の王敏氏のスピーチ

「1917年の秋から1919年の春まで、青年の周恩来は"中華の興隆のために学ぶ"という壮志を抱いて日本に留学した。

1918年2月25日、周恩来は日記で、留学と人生の目的は"進化の軌道に沿って、最新で最も大同理想に近いことをする"と明確に述べた。

1919年4月5日、周恩来は再び嵐山を訪れ、暗闇の中の"十数の電光"を見下ろし、近代化と中国の発展過程の相互関係を理解し、<雨中嵐山><雨後嵐山>の詩の中のハイライト、"一点の光明"を引き出した。これは、日中の平和共存を求める信念を温めてきてきたものでもある。

1954年11月11日、周恩来は日本の学術文化訪問団との会見で、"我々は我々の中から真に'共存共栄'の種子を見つけ出すべきで、私はその種子があると思う(《50年代の周恩来 》辽寧人民出版社 2017年)"と述べた。

1972年、"種子"は実を結び、日中平和友好共同声明が正式に発表され、日中の国交正常化が現実となる。

1979年、日中平和友好条約の締結を記念して、日本の関西地区の友好団体が嵐山の麓に《雨中の嵐山記念詩碑》を建立した。

2022年、日中国交正常化50周年を記念して、周恩来平和研究所は嵐山の頂に《雨後の嵐山記念詩碑》を立てた。二つの詩碑は保津川を挟んで向かい合い、大同を求める世代の理念と実践への承継を呼び掛け続けている。

2023年、周恩来の生誕125周年と日中平和友好条約の締結45周年を記念して、周恩来平和研究所は周恩来の親族を迎え、日本の周恩来記念活動を開始した。

2024年の清明の時期、周恩来の姪である周秉德氏とその長男の沈清氏がスピーチ文を送り、孔子79代目直系嫡長孫である孔垂長夫妇が嵐山を訪れ、周恩来の生誕126周年と平和共存五原則の制定70周年を記念する。

この千古の瞬間を共に見届け、平和の思想を千秋万代へ継承しよう、我々が誓う!"

記念交流晩餐会を記す

交流晩餐会は嵐山の花の家旅館で開催した。花の家は元々日本の禹、儒学の世家である角倉了以の旧居で、現在は"教育界の温泉旅館"となっており、その宴会場"関鳩楼"の名前は《詩経》に由来し、京都市の"京都を彩る建築物と庭園"の一つに挙げられている。京都の歴史と文化を象徴するハイライトでもある。

角倉了以は嵐山大悲閣千光寺の創設者で、一生を通じて禹の精神を伝承し、近代日本の励志の典型と数えられる。周恩来は1919年の春、嵐山大悲閣千光寺を訪れ、帰国して中華の興隆のために学ぶ初心を再確認した。嵐山で歌った詩中に述べられた"一点の光明"、"十数の電光"は、彼が嵐山で感じた角倉了以らを通して感じ取った伝承の精神と科学力を示している。

交流宴会で、参加者たちは、異なる時代の不変の精神性を吸収し、またそれを求め続けることを共有している。


2023年4月5日に開かれた「日中平和友好条約締結45周年記念―2023年清明節・周恩来祭」(四弾)の成果報告要点

2023年4月5日 「2023年清明節・周恩来祭」の企画・実施

趣旨 

周恩来総理の遺志でもある日中平和友好条約締結45周年記念の節目に、近現代日中交流史の成果の一環として、世界平和と新たな文明創造に「記録」を書き残したい。

実施(四弾構成)

第一弾:2023年4月4日、周恩来ご親族の周秉和(甥)、沈清(孫)を招き、虎の門・中国文化センターで「周恩来と日本」の講演会を開催した。

第二弾:2023年4月5日、周恩来「雨後嵐山」記念詩碑の建立地・嵐山大悲閣千光寺で周恩来の作詩「雨中嵐山」「雨後嵐山」の詩吟と作曲音楽(NPO法人国際音楽協会)の奉納、『周恩来の留日生活』(王敏)論著の献上、温故創新の会と港澳粤大湾区青年総会の支援で行った。

第三弾:2023年4月6日、福田康夫元首相主催の周恩来ご親族を囲む懇談会「未来に向けて」を、松本楼で開催した。

第四弾:2023年4月22日、南開大学の主催による第六回周恩来国際研究会で、王敏が「周恩来と日本」の報告をした。

反応 

1、 日中(香港含む)のマスコミによる報道:60数件。

2、王敏の著書『周恩来の留日生活』を、同研究領域で「34年の空白を埋めた」と評価されている。(2023年5月25日2面付け『人民日報海外版特別報道 陳答才の書評「考証細緻、結論可信―簡評《周恩来的留日生活》」)

主要記事

 2023年4月6日 朝日新聞(京都、滋賀版)「日中友好に力 周恩来を顕彰」

 2023年4月7日 新華社通信「周恩来元総理の慰霊祭、京都・嵐山で開催」

 2023年4月6日  大湾区青年報「広東・香港・マカオグレーターベイエリア青年連盟が日中平和友好条約締結45周年記念-2023清明周恩来記念式典と交流会に参加した」

 2023年4月13日 JAPTOP「"大鸾翔宇御浩然,海棠樱花永相传"——2023年清明周恩来祭奠」

 2023年5月1日 日本華僑報網「考证细致、结论可信——简评 《周恩来的留日生活》」  

 2023年6月21日 人民日報海外版日本月刊「詳細な考証、確かな結論――『周恩来の日本での留学生活』」


2、第六回周恩来研究国際学術研究会(六国参加)にて周恩来生誕125年記念及び日中平和友好条約締結記念として中国語に翻訳された小倉和夫顧問の論著『周恩来在巴黎』(九州出版社。日本語版『パリの周恩来』)が配布された。研究内容の客観性と、研究の姿勢・方法について高く評価されている。


3、上記の会合で王敏の新著『周恩来的留日生活』も配布されている。同領域で「34年の空白を埋めた」と評価されている。 


新刊発行

1、著書 『周恩来的留日生活』(王敏単著 三和書籍 2023年4月5日)

2、共訳 中国語版『福田赳夫評伝』(楊伯江、王敏等の校正・翻訳、中国社会科学出版社 2023年10月➡同名の原書は五百旗頭真の監修、岩波書店より2022年発行)

3、翻訳 『福田康夫看中国 東方知恵与世界平和』(王敏➡福田康夫の著作、外文出版社 2023年12月)

4、編纂 『YASUO FUKUDA ON CHINA EASTERN WISDOM AND WORLD PEACE』(王敏➡上記著書の英語版、外文出版社 2023年12月)

5、論文 「周恩来的両都物語」(王敏➡アジア太平洋観光社『旅日』2023年春季刊 総28期 p84‐87)

6、論文 「探訪周恩来東京足跡」(王敏➡アジア太平洋刊行社『旅日』2023年秋季刊総30期 p58‐83)

7、編集・執筆(共著)『永遠の隣国 私達の日中50年』(五百旗頭真ほか、三和書籍、2024年10月)

受賞報告

1、2023年8月22日 王敏が令和5年度「外務大臣表彰」を受賞した。(2023/07/19, 外務大臣表彰に王敏氏ら 187の個人と63団体に授与。https://www.ngo.ne.jp 外務省ニュース)

2、2023年12月20日 小倉和夫顧問の著書『パリの周恩来』(中央公論)が第10回 孫平化日本学学術賞・翻訳一等賞を受賞した。